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  • ハッピーメール【18禁】

リセット(DQ2)

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女体化サマルトリア、男性化ムーンブルクのお話。

 
竜の塔を目指して、ひたすら砂漠を進む日々。
慣れた手つきで魔物を蹴散らしながら三人は進んでいく。

「しかし、あっちぃな……」
照りつける日差しは容赦なく体力を奪う。
「さすがにな。それでも……」

アスリアは砂を掬う。いくらか掻き分けるとそこには小さな芽。
「命はこの過酷な地でも生きようとする。我が国も同じようにありたいものだ」
ハーゴン軍の襲撃で壊滅したムーンブルク唯一の血統を持つ青年は小さく笑った。
この数日、寒暖の差の激しい砂漠での野営を強いられながらの行軍。
途中に湧いた魔物は容赦なく切りつけてきた。

「レイ、怪我してるよ」
「ああこんなん舐めときゃなお……舐めてくれんのか?」
後ろから、がつん!と打ち付けてくる宝玉つきの杖。
「ど~~れ、お兄ちゃんが舐めてやろっか?あぁ?」
「やめろっ!!傷口から腐るっ!!」

言い争いもじゃれあいのようなこの日常に、リトルは仕方ないと笑う。
アスリアがパーティに加わったことによって戦闘は随分と楽になった。
攻撃魔法と回復魔法を使いこなし、魔道についても精通している。
誰も居ないところで魔法書を読みながら、新しい術を習得しようとするところもある努力家。
そしてそれを出さないのは彼なりの美学だった。
対するレイも大振りの剣を手に、引くことなく魔物と対峙する。
天性の才の持ち主はあるとあらゆる引きを扱うことが出来きるのだ。
同じように、真夜中に一人きりで剣を手に鍛錬を重ねる姿。
男二人はそれぞれの生き方を選んでいるのだ。

(結局、僕だけが半端なんだよ……もっとがんばらなきゃなぁ……)
ため息はまるで綿菓子のように溶けて、どこかしら寂しくなってしまう。
「このオカマがっ!!」
「童貞君に何を言われても痛くも痒くもないですねぇ~」
悪態を吐きあっても、戦闘となれば一時的な結束は結ぶ。
それがこの二人の面白いところだった。

 

 

「この塔に登るのかい?」
門番はのんきに煙草を燻らせて穏やかに問う。
「ああ。どっちにしてもこの先の街にはここを越えなきゃいけないんだろ?」
向かい合わせの双子の塔は、竜の角の異名を持つ。
目の前に見えるのに、激しい大渦のために船すら通れない箇所だ。

「ああ、この塔に登って高く飛べば向かいの塔にいけるさね」
老兵は穏やかに笑った。
「この中に入ってルプガナまで着いたのは……何年か前におったかねぇ。
気をつけて行きなされ」
見送られながら半分朽ち掛けた塔へと入り込む。

「うわ……埃くせぇ」
吸い込む息すらどこか灰色めいているようで口元を押さえてしまう。
螺旋階段は遥か上まで続き、吹き抜けのように中央が開いている造り。
一歩一歩足を進めながら、三人は最上階を目指していく。
途中に居る魔物は順調に切り倒しひたすら長い螺旋階段をぐるぐると登るのだ。

「あれ?あそこ……」
「踊場か……なんかあるよな」
ぽきぽきとレイは指を鳴らす。今までが順調すぎるほどに寛容に来れたのだということ。
「何も無い方が……おかしいよな?」
紫の髪を結いなおし、アスリアも宝杖を構える。
一歩一歩確かめながら三人は前へと進んだ。

「げっ!?何だありゃ!?」
「……汚らわしい魔物だな……酒飲んだ後にはあいたくねぇ……」
「…………気持ち悪くなってきた……」
夥しい触手を持つ魔物。巨大な目玉を基盤としてその回りを守るように生える触手。
厄介なのはそれが複数存在するということだった。
メドゥーサボール。ハーゴンの作り出した忌々しい亜流の魔物だ。
「……お仲間、わんさかきたぜぇ?」
アスリアの唇が少しだけ上がる。
三人をぐるりと取り囲むのはリビングデッドと泥人形の群れ。
それぞれの武器を構えて三人は魔物群れに飛び込んでいった。

 
炸裂する呪文の風をマントで塞ぎながらレイはメドゥーサボールを切り裂いていく。
(……なんつー生きモンだ……とんでもねぇ匂いだぜ……)
飛び散る緑色の体液を拭いながらわさわさと絡んでくる目玉をひたすらに斬りまくる。
ちらりと横を見れば紫の髪を靡かせて、アスリアのバギの呪文がリビングデッドを吹き飛ばし、
リトルのギラが泥人形の首を跳ね飛ばしていた。
(次から次に湧きやがって……木偶人形がっ!!)
忌々しいと視線を投げては呪文を唱える。
(いくら焼いても……終わらない……っ……)
仲間の体液の匂いに呼び寄せられるのか次から次に魔物は湧いていくのだ。
まるで溢れる水の如く。
(さすがに……疲れてきたぜ……)
鋼の剣を構えなおしてレイは再度目玉の群れに突入していく。
残りの二人の体力も限界に近かった。

「げっ!!!」
ばらばらと降ってきたのは泥人形の群れ。一瞬の隙を突かれてアスリアはその中に飲み込まれていった。
「アスリアっ!!!大丈夫かっ!?」
剣を止めることなくレイが叫ぶ。
「うわぁぁぁっ!!」
「リトルっ!?」
数本の触手が絡みつき、細い身体を締め上げる。
もがけばもがくほどそれはきつくなり、リトルの手から槍を取り上げた。
「だいじょぶ……まだ呪文の詠唱はでき……!?」
小さな口腔に触手が入り込む。これで彼女の攻撃は一切断たれた。
「ん~~~~っっ!!??」
苦しげに頭を振るものの、レイは進むことも出来ない状態。
アスリアは泥人形の中で格闘しているといった有様だ。
しゅるしゅると細い繊毛のようなものが触手の先端から生まれ、みかわしの服の上を滑り出す。
「!!」
上着の隙間からそれはするりと這い込んで、形の良い乳房に絡まっていく。
(うわぁぁぁ!!ヤダ!!ヤダッッ!!!)
もがけばその分だけ触手は中へと入り込む。
「!」
つん……と細めのそれが乳首に絡む。そのまま小突くように何度も。
それを合図に一斉にリトルの体にそれらは手を伸ばした。
耳の後ろを、首筋を。ぬるぬると粘液をこぼしながら這い回る。

「待ってろ!今助けるっ!!」
最後のリビングデッドの首を跳ね飛ばしてレイは一気に駆け寄った。
(やだ……っ……こんなのっ……)
今更ながらに非力な自分に歯軋りする。いくら男だと豪語してもこの体は女なのだ。
腰の辺りを這い回っていた触手は、ゆっくりと下着の中へと入り込む。
(やだ!!こんなのやられるくらいなら……っ!!)
それの先が割れて数本の繊毛が彼女の入口をやんわりと上下する。
それでも、まだ内部に入ろうとはせずに。
慣らす様にやんわりと肉芽を突いてはこぼれてくる体液を楽しむように絡め取るのだ。
「ん~~~っ!!ぅ……ん!!」
声はふさがれたまま、自分の中で起こる変化に必死で抵抗するように首を振る。
それでも、触れられればそれにたいして得てしまう快感。
飲み込まれそうな意識をどうにか繋ぎ止めるのがやっとだった。
ちゅく、ちゅる…入れ替わり立ち代り触手はリトルのそこを攻め立てていく。

「だ~~~~~っっ!!邪魔だってつってんだろこのクソ目玉っ!!!」
「俺様に被さって良いのはリトルだけだって言ってんだろこの木偶人形がっっ!!」
爆風と共に吹き飛ばれる泥人形たち。
満身創痍ながらも宝杖を手にアスリアは前を見た。
「まさか……産卵期?」

メドゥーサボールの母体は悪魔の目玉。
それには年に数回の産卵期があった。人間でも魔物でも自分たち以外の種族に卵を植え付け、 母体を苗床とするのだ。
一度植えつけられた卵は数時間で孵化し、内部で育ち始める。
それを止めることは現在の魔法技術では不可能に近かった。
「レイ!!早く殺れ!!そいつはリトルに卵を産み付けるつもりだ!!」
ぎりぎりまで目玉をひきつけてアスリアは渾身の季からで眼球を宝杖で突き刺す。
「分かった!!」
足元に転がるリトルの槍を拾い上げて、狙いを定めて投げつける。
「何!?」
鉾先はリトルの鼻先を掠めて口腔を蹂躙していた触手を切り落とした。

「あっ!!やぁ……ッ!!」
きゅん、と乳房を揉むようにそれが絡まり、見せ付けるように下穿きを剥ぎ取る。
下着の端に先端がかかり、剥ぎ取るように引き裂いた。
細い腰を持ち上げて、足首に絡んでいた触手が左右に動く。
無理やりに開かされた状態で、狙いを定めるかのように赤黒く太いそれが顔を出した。
腰を浮かせて、入りやすいように身体の向きを変えられる。
その間にも胸に、濡れた入口に愛撫の手は休まらない。
とろとろとこぼれだしたそれは乾いた床を濡らして淫靡に輝く。
魔物と王家の血の融合を歓迎するかのように。

「やだっ!!止めてっ!!」
悲鳴も懇願も魔物には通じない。
「どけバカガキっ!!」
宝杖を床に突きたててアスリアは天を仰ぐ。
「偉大なる精霊ルビスよ。我に力を!!!頼んだぜ!!べっぴんさん!!」
手の中で生まれ始める膨大な熱。
「俺が連中ひきつける。お前はリトルを狙え!!」
それは次第に大きさを増して壁を揺らし始めた。
「イオナズン!!!」
爆風で吹き飛ぶ魔物をかわしながらレイは愛用の剣で目玉を突き刺した。
「そいつの処女は……俺のもんだァっ!!!」
ぎり…と引き裂けば耳障りな悲鳴を上げながら目玉はどさりと崩れ落ちた。

「…ふ……ぇ……っ…!!」
ぺたり、と座り込んで半泣きの少女を抱きしめて宥めるようにキスをする。
「あんな目玉にリトルの処女がやれるかっての。俺が貰うって決まってんだからよ」
「……か……勝手なこと言うなぁっ!!
ずるずると壁に崩れる身体。力の入らない手が石を投げつける。
「バーカ。リトルのバージンは俺が貰うんだっつーの……」
よほど疲れたのか荒い息と汗の匂いが空間を支配する。
「ま……偶然でも、イオナズンだせた……儲けモンだ」
取り出した煙草に火をつけて、彼は小さく笑った。
散らばった衣類を集めて、なんとか着込む。

どれだけ自分は男だと声高に叫んでも、現実は過酷だ。
(でも……僕はサマルトリアの第一王子だ。今も、これからも)
何気に着いた掌に掠める小さな箱。
魔物の屍骸に埋もれて気付かなかったが、拾い上げればそれは何かの封印がしてある宝箱だった。

「なんだ、これ?」
触れればそれだけで崩れそうなくらいに風化した破邪の札。
書き記された文字は古の勇者ロト、その人のものだった。
「女の……文字だな」
「わかんのかよ、お前」
「ご先祖様は愉快な女性だったらしいぞ。世界中を飛び回ってさ」
勇者ロトは気さくな女だと古の文献には記されていた。
それ故に、魔法を基とする者は女のほうが優れてしまう。それは血の成せる業。

「ねぇ、開けてみようよ」
その声にアスリアはリトルに宝箱を渡す。
「女の封印は、女が解く方が良い。男にゃ危険だ」
「……うん……」
意を決して封を外す。中には蒼と虹を織り込んだような煌びやかなマント。
「うわぁ……」
「これが噂の……風のマントか……」
「大した趣味だぜ、ご先祖様も」
虹を封じ込めたマントを靡かせて、剣を降りながら魔物を牽制する姿。
想像するに大層面白い女だったのだということは分かった。
旅は楽しく、道は続く限り何処までも。
仲間たちと果て無き道を歩いていったのだ。

「さて、誰が着ける?やっぱリトルか?」
身に纏ってみるものの、どうも覚束ない。
言うなればマントがどこか彼女を拒絶しているのだ。
「じゃあ俺?」
レイが纏えば今度は風を生み出してしまう始末。
「…………やっぱし、俺かぁ?」
頭をかきながらアスリアは風のマントを纏う。
ロトの血は同じ性を好むのか、女であったアスリアを選んだ。

(そっか……ご先祖様には僕が男だって分かるんだ……)
知らず知らずにほっとしたのか小さなため息。
(そうだよね。ちゃんと見てる人には……分かるんだ。頑張ろう。この旅が終る頃には何か見えるかもしれないし)

右にレイ、左にリトルを抱いてアスリアは下を覗き込む。
雲の切れ間から覗く大地。失敗すれば即死だ。
「んじゃあ行くぜ?準備はいいか?」
床を蹴って一気に宙を舞う。
「うわ……すげぇ」
「本当だ……僕たち空を飛んでる……」
まるで翼でも生えたかのように、向かいの塔を目指して三人の体は風に乗る。
髪をかき上げる風の心地よさ。
さっきまでの魔物との一戦など忘れてしまいそう。
(ご先祖様、この旅が終ったら……僕は……)
真っ直ぐに進む道を示唆するように風は三人を運ぶ。
(僕は、僕に戻れますか?それとも、進むべき道が見えますか?)
知るのは天上の人ロトばかり。

 

 
港町ルプガナは商業の盛んな場所。
元々はアスリアの母国ムーンブルクの領土である。
「今夜はここに泊まるしかないな」
宿屋で少し早めの夕飯を取り、それぞれの部屋の鍵を受け取る。
どっちがリトルと同じ部屋に泊まるかで男二人はいがみ合ったのだが、仲良くビンタを一発ずつ
喰らって諦めも付いたらしい。
久々のベッドと、なによりも暖かい風呂に浸かれることが余程嬉しいのかリトルは早々に部屋に消えてしまった。
仕方が無いと男二人もそれぞれの部屋で時間を潰す。
「レイ?今ちょっと良い?」
風呂上りの湯気を絡ませて、部屋に入り込んでくる少女。
「あ、ああ。どうかしたのか?」
「これなんだけどね」
リトルは袋からざらざらと宝石をシーツの上に広げた。ざっと換算するに一万ゴールドはある。

「魔物の中には素が宝石なのもあるみたい。ちょこちょこ拾ってきたんだけども」
「大したもんだな……お前って」
「それに、レイの剣だってもうぼろぼろだよ。そろそろ新しいのにしなきゃ」
男であって男ではなく、女であって女ではない。
どちらにも属さずにどちらにも属する。
アスリアも同じなのだろうが、リトルはまた違うような気がした。
「僕も、もっと強くなるよ。ここは港町だから良いものがあるかもしれない」
揺れる柔らかい栗色の髪。
指に感じる仄かな甘さは、紛れもなく女のそれのはず。
「なぁ、聞いても良いか?」
「何を?」
「もし、もしもさ……男に戻れるとしたら……戻るか?」

「………………………」

少しだけ困った表情。小さな唇がゆっくりと開く。
「そうだね。どうしてこんなことになったのかは父上に聞いてみなければ分からないけど……
でも、もしも意味があるのならばそれを見定めてから決めようと思う」
自分たちが悪戯にちょっかいを出しても、彼女の目線はもっと先を見ていた。
この旅の先。世界の行く末を。
「正直に言えばわかんない。まずはハーゴンを倒してから考えるよ」
あはは。と笑って宝石を袋に戻す。
白い指先に、早くなる鼓動。
「リ、リトルッ!!」
ぎゅっと抱きしめれば、驚いたように竦む肩。
「この旅が終って、お前の気持ちが……女のままでも良いって思うんなら……」
「…………………」
「俺と一緒に、ローレシアで暮らさないか?」
じっと見詰めれば、困惑した色の瞳。
頬に手を当てて、その鼻先にちゅ…と接吻する。

「……僕、これでも男だよ……」
「今は、女だ」
「僕だって、サマルトリアの第一王子だ。お願いだからそれを否定しないで……」
時折忘れてしまいそうなほど、自分が女になりかけているのは分かっている。
それでも、この流れる血だけが自分が王子であることを証明してくれるのだ。
「ウルァ!!こんのマセガキが。俺様のリトルに何晒してんだ?」
ドアを蹴り上げてレイの首根っこを掴む腕。
「うわ!酒臭ぇ!!」
視点の定まらない瞳。濃い酒気の匂いは部屋に充満するほど。
それでも飲み足りないのか片手には年代もののワインのボトルが握られていた。
玻璃にも注がずにそのまま口をつける姿を見れば、ムーンブルク王は卒倒したであろう。
「っとま、冗談はここまでにしといてさ。取引を決めてきた」
酒場は自分のテリトリーとばかりにアスリアは姿を消していた。
酒場に集まる世界中の人間から集める数多の情報。
それを全て頭に入れて彼はより良いものを選び出す。

「ここ最近この街で悪さする小悪魔ちゃんが居るんだって。それも毎週末に可愛い女の子ばっか
狙って連れ去るんだってよ。許せますか?レイさんよぉ」
余程気分良く酔ったのかいつもよりも饒舌だ。
「そんでさ、たまたま飲んでた親父がここの町長でよ。そいつ等退治したら船くれるって言うんだ。
だから良いぜっていってきた。ついでに酒のおごってもらったしな」
けらけらと笑いながら髪を縛る組紐を解く。
飾りに付いているのは不死鳥を模ったロトのそれ。
「お前、王家の人間の自覚ねぇだろ」
「まさか。あるから引き受けたんだ。無駄な犠牲は出したくないだろ?ここは……ムーンブルク(うち)
の領土だ。ここで起きてることは俺が何とかしなきゃいけないってことさ」

親指で唇を拭って、自信たっぷりに笑う瞳。
赤い瞳は皮肉めいた笑いと憂いを同時に抱く。
「まずは週末までここでゆっくりしようぜ…………」
欠伸を噛み殺して、アスリアはころんとリトルの膝に頭を乗せた。
程無くして聞こえてくる寝息。
「疲れてたんだね。からからになるまで魔法力使ったんだもの……」
未契約のはず高等呪文は、術者の体に膨大な負担を掛ける。
それでもその呪文を使いこなすのはそれだけの器があったからだ。
血だけではなく、彼の努力の結果だった。
「だからって俺の部屋で寝るなよ……オカマが……」
「レイ」
おいでおいで。とと小さな手が招く。
「レイもここで寝る?レムもよく僕の膝の上で寝てたよ」
レイの手を取って、自分の膝に乗せる。
「それに、ここに傷出来てるよ」
額と頬に出来た刀傷をなぞる指先。
ほんのりとそれは暖かさを帯びて優しい光を降らせていく。
リトルもアスリアも、どちらも回復呪文の使い手だ。
それでも同じ呪文ならばリトルのほうに頼みたいと思うのは女だからだけではないはず。
もっと、違った感情が動いてしまうのだから。
「あったけ……気持ちいいし……」
「レイ。ありがと」
「何が?」
「助けてくれて。アスリアにもお礼言わなきゃ……」
「馬鹿。仲間だろ?それに……」
少し照れるのかレイは顔を背けた。
「未来の嫁だ。俺が守んなくてどうすんだよ」
二人の頭を抱きながらリトルは苦笑した。
「マセガキ。リトルは俺の嫁さん」
「……オカマ、寝たんじゃねぇのかよ」
「野郎の野太い声で目覚めるなんざ……最悪だ」
自分の膝の上で言い合う声に、こぼれるのはため息ばかり。
「いいかげんに……しろっ!!馬鹿二人っっ!!」
ごちん。と二人の頭をぶつける。
ルプガナ最初の夜は、騒がしく更けていった。

 

 

翌日は武器屋で買い付けに走り回る。
連日の戦闘でレイの剣先は欠け、リトルの槍に至ってはひびが入っていた。
アスリアの宝杖も肝心のロッドが欠け、三人同様に満身創痍だった。
魔道士の杖に身かわしの服。鋼の鎧と盾。
そして、三人で揃えた銀の鈴。
「お姫様にはついでにこれ」
小さな指輪に鎖を通した簡単なペンダント。指輪の中央には小さいがきららと輝くエメラルド。
リトルの瞳よりも、少しだけ薄い翠の宝玉。
「あ、ありがと……」
レイを横目で牽制しながら、アスリアはそれをリトルの首に。
「俺からは、これ」
真新しいヘッドゴーグル。戦闘で同じようにぼろぼろになっていたのをレイも気に掛けていたのだ。
「あ……これ……」
受け取ってそれを装着する。真新しい皮の匂いと魔法の掛かった硝子。
「二人とも、ありがと」
「いえいえ未来のローレシア王妃のためなら」
「ムーンブルクの歴史に共に名を残せるのだから」
手を取って睨みあう視線を断ち切るのも彼女ならば、原因となるのもまた彼女。
(これって、何が何でも男に戻らなきゃ戦争起きちゃうよ)

 

週末を明日に控え、街は何時も通りざわめきながら夜を迎える。
明日のことを考えて今夜は早めに休むという意見には誰も異論は無かった。
喧騒を離れてのんびりと湯船に浸かる。
(そういえば……そんなに意識したこと無かったなぁ……)
王宮では王子として育てられ、自分のことをじっくりと考えたことなど無かった。
今よりもずっと時間はあったはずなのに。
伸びた脚、ほんのりとふくらんだ乳房。円と丸が構成する身体。
筋肉もあるがそれよりも柔らかいもので作られる肢体。
(そっか……女のこの身体って柔らかいんだ……)
それが普通で当たり前だと思っていた。
指先で体の線をなぞってみる。柔らかい乳房に触れて。
「……んっ……」
あの時に触れられた感覚が、ありありと蘇ってくる。
女の体は誰かを受け入れられるように造られて、誰かを待っているのだから。
(やだ……こんなこと……)
それでも、火の点いてしまった身体は止められなくて指先は下がっていく。
躊躇いがちにそっと入口に指を這わせる。
(僕……僕……女の子じゃない……)
まるで他人の体に触れるような感覚。
濡れた指先がつん…と肉芽に触れて、びくんと肩が竦む。
「…ぁ……っ…」
ダメだと思っても、歯止めの聞かなくなった本能は指を止めることが出来ない。
そこに触れたことなどなかったが、どうすれば良いのかは体が知っていた。
疼きを押さえるために。
「……っは……あ!……」
膝を立てて、まるで誰かを受け入れるように少しだけ開く脚。
踊るように指は動き、彼女の意識を少しずつ侵蝕していく。
きゅん!と摘み上げればそれだけで熱くなり、蕩けそうな神経。
もっと奥に、もっと違うものを……。
体が、本能が、欲しがる。
「あんっ!!あ……ぅん…」
両手でそこを捏ね繰り回して、生まれる疼きを懸命に押さえようとする。
押さえられずに、もう一つの道を選ぶ。
けれどもそれは――――自分が男であることを失うこと。
「ア!アあんッ!!!」
ぐ…と押し上げたはずみに訪れた絶頂。はぁはぁと荒い息だけが浴室に響く。
(けど……僕は……)
この柔らかく脆く、忌まわしい身体。
(僕は……男だよ……こんなことしてても……)
体とは裏腹に自覚してしまった『憂鬱』は羽根を開いてひらひらと舞い落ちる。
誰にも言えない悩みを抱えて、眠る夜ほど長いものは無くて。
こんな時に見る夢は決まって昔の何もかもが当たり前であった日々のことばかり。
繰り返し見る夢をリセットできるのはいつの日になるのか。
それは三者三様で見る夢でも、古の勇者ロトでも分からなかった。

 

 

グレムリン切り倒し、報酬の船はあと数日後に入港するらしい。
船乗り無しで動けるように、魔法石を基盤とした最新型の船だ。
術者が方向を念じて触れればその方向に進む。
魔法国家ムーンブルクの秀作と言っても良い一品だ。
「まぁ、俺の国だからこんくらいあたりまえだけどな」
そう言いながらも嬉しげに笑う青年。
「あの……もしかしてムーンブルクのアスリア王太子さまでは……」
駆け寄ってきたのは一人の少女。
緩く波打つ髪に少しだけそばかすの散った頬が愛らしい。
「ああ、そうだけども……」
「あの……これを……」
小さな宝箱を少女はアスリアに差し出した。封は確かにムーンブルクの紋章。
「これは?」
「お父様が……お父様はムーンブルクのお城の兵隊だったんです。でも、死んじゃって……」
少し涙ぐみ瞳。
「夢の中でお父様が言いました。アスリアさまが来たらこれを渡すようにって」
「……すまない。わたしのために君の父上を……」
少女は首を横に振る。
「アスリアさまがここに来てくれなかったらお友達がまた攫われて食べられるところでした。
それに……私もムーンブルクの国民です。アスリアさまがまた……ムーンブルクを直してくれって
信じてます。お父様も夢の中で言いました。後悔は無いと……」
「ありがとう。必ず、国は復興させる。みんなのために。幸せなれるように」
小箱を受け取って封を解く。
「これか……親父の言ってたやまびこの笛は。どうりでどこ探しても無いわけだ」
それを首から下げてアスリアはにっと笑った。
「俺も頑張る。だから……一緒に頑張ろう」
「はい!」
走り去る後姿を見送りながら、リトルは自分の胸に手を当てた。
(可愛いって思った……ってことは僕、ちゃんとまだ男だってことだよね)
一条の光でも見つけたかのように生まれる笑顔。

「どうかしたのか?」
「早く船が来ないかな~って思って」
「一本釣りで美味いの釣ってみせるから。任せとけ」
「あはは。期待しちゃおうかな」
煙草に火をつけて、アスリアはレイの頭を押さえ込む。
「んじゃ俺はリトルを一本釣りさせてもらいますんで」
「ふざけんなよ!オカマが!!誰が渡すか!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う声に耳を塞ぐ。
(ご先祖様、どうしてもっとまともな人選をしてくれなかったんですか?)

 
前途多難な三人組。
今度は未知の大陸目指して大海原へと飛び出していく。

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