ホーク×詩人[女性化](ミンサガ)
それはあんな美人がパイレーツコーストにいたら、嫌でも目立つに決まっている。
そこそこに綺麗な商売女なら幾らでもいたが、正直比べ物にならなかった。
娼婦達が哀れになるほどだ。
白い肌、金色の髪、青い瞳。そうしてぼってりとした、蠱惑的な唇。
絵に描いたような美人ってのはこういうのを言うんだろうと、海賊達の間でも評判になったが。
ただ一つ。惜しむらくはそいつは男だった。全くエロールも勿体無いことをする。
暑いこの島では珍しく着込んだ服を引っぺがしたら実は女なんじゃねえか、と言う奴らもいたが、
声を聴けば嫌でも解る。残念ながら疑いようが無く男だ。
それでも正気に戻れなかった奴らが、口さえ塞いでしまえばわからねえとよからぬことを企んだらしいが、
翌朝束になって船着場に重なってたという話だ。
一体何があったのか。
奴らは絶対に喋ろうとはしなかったので、今の今まで詳細は不明のままだ。
その日もいつもと全く変わらずにこやかな微笑を浮かべて、彼はパブで歌っていたらしい。
ホークは男には全く興味が無かったが、パブに行く度にその吟遊詩人のことは目に付いた。
それはそうだ、あんなに目立つ男はそうはいない。
まともに口を利いたことはなかったが、顔見知り程度にはなった。
連れの女にせがまれて何度か歌を聴いたこともある。正直、その顔ほど見事とは言えなかったが。
だからパイレーツコーストを追われ、流れ流れてウソまで来て。
見慣れない土地でその姿を見た時は、何とも言い難い気持ちになった。
懐かしいとも少し違う、かと言って別段嫌な気持ちになった訳でもなく。
赤の他人と言う訳でも無し、久しぶりに歌でも聴くかと傍に近付いて。
何だか、妙な感じがした。
「こんにちは」
近付いてきたホークを見て、吟遊詩人はにっこりと笑ってそう言った。
その顔を隠すように目深にかぶった帽子、やはり暑いこの町には珍しく着込んだ服、滅多に見ない
珍妙な形をした楽器。
邪魔な帽子を避けるようにその顔を覗き込めば見える、日に焼けることの無いような白い肌も、
日の光のような金色の髪も、晴れ渡った空の色の瞳も。
「一曲いかがですか?」
そうして近付いて来た客に告げる前口上もさえも。
何もかもがパイレーツコーストにいたあの詩人と同じだったが。
「……すまねえ、人違いだ」
ただ、声だけが違っていた。詩人に相応しく、耳に心地よい響きのその声。
女性にしては低いかもしれないが、明らかに男性のそれではない。
「どうしました?」
詩人は不思議そうにホークを見上げて微笑んだ。
その微笑もあの時の吟遊詩人とそっくりだったが、性別までは間違える筈も無い。
「馴染みだった詩人と間違えた。許してくれ」
確かに、彼に比べると一回り小さい気もした。体付きのことまでははっきりと覚えていないが。
珍しい女性の吟遊詩人は、ホークの言葉を聞いて再び微笑を浮かべた。
「時々、間違われるんですよ。わたしと似た方が、マルディアスを旅しているのでしょうね」
いつか会ってみたいものです、と。口調までそっくりそのままに彼女はそう言った。
混乱するホークに気付いたのかどうなのか、詩人は手にした楽器を手に微笑みかける。
男なら誰もが口付けたくなるような唇が、優雅に釣り上がった。
「その方には負けるかもしれませんが、よろしかったら聴いて行かれませんか?」
否と、答えられる筈がなかった。
それからどれ程時間が経ったのか。
歌を歌い物語を語る彼女を見ながら、ホークの混乱は更に深まった。
あまりにも全てが、かつての吟遊詩人を思い起こさせたからだ。
「それほど、わたしの顔が珍しいのですか?」
彼女は一通り歌い終えて、勧められた酒を飲みながら不思議そうに首を傾げて尋ねて来る。
その様は女性以外の何者でもない。ホークは首を振る。
「なあに、あんたみたいな美人、滅多にお目にかかれねえからな。とっくり見とかないと」
「お上手ですね」
世慣れた風にホークの世辞をさらりとかわした後、彼女はふっと優しい眼差しになった。
「わたしは、その吟遊詩人の方にとても似ているんでしょう?
皆さんわたしの顔をこうして見つめて、違っていることに残念そうな顔をされる。
とても魅力的な方のようですね」
こうして心に残してもらえるなんて、羨ましい。そう言って微笑む。
その微笑に惹かれたように、ホークは知らず手を伸ばし彼女の手を掴んだ。
「あんたほどじゃない」
「……お上手ですね」
同じ科白を繰り返す、彼女の微笑がふいに深さを増した。こんな時の女はいつも謎めいて見える。
これほどの美人であれば、尚更。
「……確かめさせてもらえねえか?」
手袋越しに軽く手を撫でて囁いた。丈夫そうな皮の手袋に包まれたその手の感触は未だわからない。
「わたしでよければ」
喜んで、と。言って、詩人はホークの手からするりと自分のそれを抜いた。
それはあんな美人がパイレーツコーストにいたら、嫌でも目立つに決まっている。
そこそこに綺麗な商売女なら幾らでもいたが、正直比べ物にならなかった。
娼婦達が哀れになるほどだ。
白い肌、金色の髪、青い瞳。そうしてぼってりとした、蠱惑的な唇。
絵に描いたような美人ってのはこういうのを言うんだろうと、海賊達の間でも評判になったが。
ただ一つ。惜しむらくはそいつは男だった。全くエロールも勿体無いことをする。
暑いこの島では珍しく着込んだ服を引っぺがしたら実は女なんじゃねえか、と言う奴らもいたが、
声を聴けば嫌でも解る。残念ながら疑いようが無く男だ。
それでも正気に戻れなかった奴らが、口さえ塞いでしまえばわからねえとよからぬことを企んだらしいが、
翌朝束になって船着場に重なってたという話だ。
一体何があったのか。
奴らは絶対に喋ろうとはしなかったので、今の今まで詳細は不明のままだ。
その日もいつもと全く変わらずにこやかな微笑を浮かべて、彼はパブで歌っていたらしい。
ホークは男には全く興味が無かったが、パブに行く度にその吟遊詩人のことは目に付いた。
それはそうだ、あんなに目立つ男はそうはいない。
まともに口を利いたことはなかったが、顔見知り程度にはなった。
連れの女にせがまれて何度か歌を聴いたこともある。正直、その顔ほど見事とは言えなかったが。
だからパイレーツコーストを追われ、流れ流れてウソまで来て。
見慣れない土地でその姿を見た時は、何とも言い難い気持ちになった。
懐かしいとも少し違う、かと言って別段嫌な気持ちになった訳でもなく。
赤の他人と言う訳でも無し、久しぶりに歌でも聴くかと傍に近付いて。
何だか、妙な感じがした。
明かりは消さないでおいた。相手も特に不満はないようだ。
詩人は部屋に入ると背に抱えていた楽器をいとおしそうに撫でた後、ベッドの脇に置いた。
それから帽子を脱いだ。流れ落ちた金髪がランプの灯を映して眩しい。
髪からはふわりと太陽の匂いがした。夜の中で嗅ぐその香りは、何故かホークを興奮させた。
「その帽子、引っぺがしたくて堪らなかった」
ホークは呟いて、その美しい髪に指を絡める。最初に見た時からずっとこうしたかった。
そのまま顔を引き寄せると彼女は首を振りホークを押し留める。
「もう少し、待ってください」
それから手を覆っていた手袋をゆっくりと外した。ぽとり、と片方が床に落ちる。
現れた手は予想していた通り白く美しい。思わずその華奢な手を掴んで指先を口に含み、指の間に
舌を這わせると、紅い唇から白い歯がこぼれ僅かに吐息が洩れた。
「まだ残っていますよ?」
言われて、名残惜しげにホークは唇を離す。
細くしなやかな指でもう一つの手袋を外す様を見ている内に。
(やべえな、こりゃ)
自分が途轍もなく興奮していることをホークは自覚した。
口の中が渇き、掌からじっとりと汗が滲み出る。
当然、下半身は痛い位に張り詰めている。これほど欲情を覚えるのは一体何年振りだ?
ホークの自問自答など当然知らず、彼女は漸く手袋を脱ぎ終えた。
今度は白い指が不思議な形をした上着に掛かる。まだまだ時間は掛かりそうだ。
「詩人さんよ」
掠れた声でホークは呼び掛ける。シャツのボタンを半分外し終えた辺りで手を止め、詩人はホークに
微笑みかけた。
「何でしょう?」
その外れた部分から覗く胸のふくらみから目を逸らす。
全く、今まで何人の女の裸を見て来たと言うのだ。もう見飽きたと言ってもいいくらいだろうに。
それでも直視するのは躊躇われた。してしまうと我慢出来そうにない。
「サービスは嬉しいんだが、ちょっと俺が耐えられそうにないんだわ」
わかっているのか、いないのか。不思議そうな顔をした後、彼女は再び微笑む。
「わかりました」
それから身に付けていたやはり奇妙な形をしたズボンを下着ごとするりと脱ぎ捨て。
ホークに歩み寄り、その首に腕を絡めて口付けてきた。
それからどれ程時間が経ったのか。
歌を歌い物語を語る彼女を見ながら、ホークの混乱は更に深まった。
あまりにも全てが、かつての吟遊詩人を思い起こさせたからだ。
「それほど、わたしの顔が珍しいのですか?」
彼女は一通り歌い終えて、勧められた酒を飲みながら不思議そうに首を傾げて尋ねて来る。
その様は女性以外の何者でもない。ホークは首を振る。
「なあに、あんたみたいな美人、滅多にお目にかかれねえからな。とっくり見とかないと」
「お上手ですね」
世慣れた風にホークの世辞をさらりとかわした後、彼女はふっと優しい眼差しになった。
「わたしは、その吟遊詩人の方にとても似ているんでしょう?
皆さんわたしの顔をこうして見つめて、違っていることに残念そうな顔をされる。
とても魅力的な方のようですね」
こうして心に残してもらえるなんて、羨ましい。そう言って微笑む。
その微笑に惹かれたように、ホークは知らず手を伸ばし彼女の手を掴んだ。
「あんたほどじゃない」
「……お上手ですね」
同じ科白を繰り返す、彼女の微笑がふいに深さを増した。こんな時の女はいつも謎めいて見える。
これほどの美人であれば、尚更。
「……確かめさせてもらえねえか?」
手袋越しに軽く手を撫でて囁いた。丈夫そうな皮の手袋に包まれたその手の感触は未だわからない。
「わたしでよければ」
喜んで、と。言って、詩人はホークの手からするりと自分のそれを抜いた。
唇は予想通り、いやそれ以上に柔らかく、ホークの唇から吸い付いて離れない
蛸の吸盤か何かのようだ、と不届きなことをちらりと思いながらも、思う様その感触を味わった。
ぬるりと舌を絡めるとすかさず絡め返して来る。貪り貪られ、互いの唾液をどれだけ送り込めるか、
競争でもしているかのようだ。
最後に残った邪魔なシャツを引き裂く寸前になりながら、何とか脱がせて放り投げた。
厚く覆われた上着の上からは想像出来なかった豊かな乳房を性急に揉みしだくと、口付けていた
彼女の顔が僅かに歪んだ。
「ああ、すまん」
慌てて力を緩める。全くガキじゃあるまいしと苦笑するが、愛撫を行うことすらこれほど
もどかしいのは本当にケツの青いガキの頃以来だ。
「ちょいと焦らされ過ぎた」
ホークの言葉に形容し難い微笑みを浮かべて、彼女は囁く。
「我慢の出来ない男は、嫌われますよ?」
「全くだ」
ちょいと宥めてくれねえかと真顔で言うホークに、詩人はゆっくりと頷いた。
「お手伝いしましょう」
顎の髭の付け根にそっとキスをした後、ホークをベッドの端に腰掛けさせる。
従順に跪きその白い手を自分の一物に絡める姿を見て、ホークは慌てて目を逸らした。
やらせておいて何なのだが、ひどく冒涜的な感じがしたのだ。それが尚更劣情を煽る。
「うぉ……」
おまけに彼女はサービス精神旺盛だった。
軽く撫で上げた後躊躇なくホークのそれを口に含み、ねっとりと濃厚な愛撫を始める。
先程の口付け以上にその唇は柔らかく、吸い付き、絡み、ホークを責め立てた。
先端から根元まで、余すところなく舌が這う。清楚な見た目から想像も出来ない舌技だ。
彼女の長い睫毛が時折下腹部を擽るのを感じて、ホークは熱い感触に溺れながらも驚愕した。
(どういう口してんだよ、おい)
一体何処まで飲み込んだと言うのか。下を見るが、見えるのは金色の頭だけ。
仕方なくただ手を伸ばして、詩人の長い髪を掴んだ。
「すまねえ、出すぞ」
「……、どうぞ」
一旦口を離すと、彼女はホークを見上げてにっこりと笑った。その微笑のあまりの純真さに
ホークは言葉を失う。まるで少女のようだ。
行為と表情のあまりの差への戸惑いから覚めぬ内に、彼女はもう一度ホークを口に含み、
今まで以上に激しく責め出す。唇で挟み、舌で先端を舐め上げ、指で全体を扱く。
堪らず、ホークは彼女の髪を再度掴み、温かな口内に精を放った。
多少すっきりした所で、急に心配になって俯いた彼女を見下ろした。
「どっか吐き出すか?」
「……」
手を上げてゆっくりと首を振ると、暫く下を向いた後、詩人は顔を上げた。名残のように
白い喉がごくんと動く。
「……大丈夫、ですよ」
ひどく扇情的だが、ホークは更に心配になって、手を伸ばしてその唇をなぞる。
「別に無理に飲まんでも、俺は気にしねえんだが」
「ちょっと久しぶりなので、忘れていただけですよ。お気になさらず」
「久しぶりねえ……」
どうやら誰にでも体を許すという訳でもなさそうだ。先程のあれは娼婦でも味わったことが
ないような技術だったが。
「無理させちまったな。今度は俺の番だ」
そう言って、ホークは詩人の体を抱き上げるとベッドの上にどさりと投げ出した。それから
彼女の体を隈なく観察する。漸くそれだけの余裕が出来たのだ。
その顔から予想した通り全身真っ白な肌。すんなりと伸びた華奢と言っていい程の手足。
ほっそりとした体にしては意外な程に豊かな胸、きゅっと引き締まった腰からたっぷりとした
臀部へと描かれた優美な曲線。
正しく、男が女に求める理想的な体をしていた。
「勿体ねえな」
その上に被さりながら、ホークが思わずのように呟くと、彼女は律儀に問い返してきた。
「何がですか?」
「こんな綺麗なもんを、あんな服で隠すなんてよ」
「……褒め過ぎですよ」
言って、僅かに頬を染める姿は、何処か初々しくさえあった。おかしなものだ。
「まあ、あんまり晒してたら危なくて歩けねえよな。気持ちはわかる」
長い髪に隠れていた耳を探し出してそう囁くと、ぴくりと体が震えた。
「耳、好きなのか?」
意外に思って、今度は息を吹きかけるように尋ねてみると、顔を更に赤くして答えて来る。
「嫌いな人なんて、いないでしょう?」
「……ご尤も」
おまけに感じやすいと来れば、正しく完璧ではないか。
上から順に行くかと、まずその耳をぞろりと舐めた。全身が震えたのが伝わって来る。
気にせず奥へ舌を差し込むと、いやいやをするように体を揺らしながらホークの体にぎゅっと
しがみ付いてきた。
「ん……っ」
抑えたような喘ぎ声に不思議になる。これが先程躊躇なくホークを咥え込んだ女だろうか?
そのまま感じやすそうなうなじへと唇を滑らせた。新たな箇所に触れる度に彼女の体が
跳ねる。もっとじっくりと責めたい所だが、ホークの方もそこまで悠長にする余裕は既にない。
そうして、体の動きに合わせて揺れていた乳房に漸くたどり着く。仰向けに寝そべっていても
綺麗に盛り上がったその部分は、華奢な体には大き過ぎるほどだが、ホークの手に余る程でもなく、
無骨な男の掌にぴったりと収まった。
先程乱暴にした分を取り返すようになるべく優しく、弾むように柔らかな感触をゆっくりと楽しむ。
詩人は眉をひそめてその動きに耐えていたが、ホークの唇がその桃色の頂を軽く掠めると、
堪えかねたように甘い喘ぎを洩らした。
「あ……っ」
「何だ、ちゃんとイイんだな。黙ってるから心配になっちまった」
ホークが軽口を叩くと、真っ赤になって詩人は顔を逸らす。
「……何で今更恥ずかしがるんだ? さっきのに比べりゃ何でもないだろ?」
その照れ様があまりにおかしくてそう尋ねると、赤い顔のまま彼女は答えた。
「されるのには、あまり慣れてないので」
「……なるほど」
碌な男と付き合ってねえなと呟きながら、不甲斐ない男共の分も取り戻すようにホークは丹念に
愛撫を続ける。実にホーク好みの胸の為でもあるのだが。
くにゅくにゅとホークが指を力を入れる度に白い乳房はその動きに合わせて形を変え、先端は
いやらしく尖って来る。しゃぶってくれと言われているようで思わず口に含むと、今まで以上に
大きな声が聴こえた。
「ひゃっ!」
喋る時や歌う時のそれとは違い明らかに甲高いその声に、ホークも一旦は解放した筈の欲望が
見る間に滾るのを感じた。
なるべく丁寧にと言い聞かせていなければ、見境なくむしゃぶりついてしまいそうだ。
空いている方を指先できついくらいに摘み上げると、同じような声が先程よりも大きく発せられた。
漸く素直に声を上げる気になったのか。ホークはにやりと笑って、名残惜しげに唇を離した。
やっと解放されたことで安堵したのか、詩人は息を吐き出し胸が大きく上下に動く。だがすぐに
また息を呑む羽目になった。
ホークがその白い太腿に手をかけて開かせ、足の付け根の薄く煙るような金色の茂みに
口付けたからだ。
「さっきのお返しだ。随分遅くなっちまったがよ」
「そんな、気にしなくて……あふっ」
遠慮なのか羞恥なのか、やはり躊躇する言葉に当然耳を貸す筈もなく、ホークはそのまま
その部分に顔を埋めた。金色の産毛に覆われた白い肌から桃色の襞に違和感なく続く花芯。
予想は付いていたが、彼女はそこすら美しかった。
たっぷりと唾液を乗せた舌を、湿らす必要もないほど既に濡れそぼっているその箇所に容赦なく
差し込む。肉に覆われた部分を掻き分けるように先へと進め、中心の芽を押し潰した。
「やぁ、あ、あっ……ぅん!」
声を殺すことを漸く諦めたのか、それとも堪え切れなかったのか。詩人はやっと素直に嬌声を
上げ始めた。耳に心地よいその声を聞きながら、ホークは愛液を吸い尽くすように貪った。
やがて彼女の入り口が、足が、ひくひくと震え出す。限界が近づいていることを感じて、ホークは
漸く顔を上げた。
「……そろそろ俺も限界なんだが、いいか?」
「……っ」
涙をたたえた青い瞳で詩人が頷く。その未だ恥らうような様にらしくもなく嗜虐心が煽られて
ホークはふいに彼女の体を起こした。
「じゃあ、さっきみたいに頼む。今度は下の口でやってくれ」
そのまま寝そべった男を戸惑うように詩人は見下ろす。
「……どうやって?」
「口でやったみたいにやりゃいいんだ。今度は俺の上に跨って、あんたが気持ちいいように
動いてくれりゃいい」
「わたしが気持ちいいように……?」
「そうだ」
言いながら、ホークは再び呆れた。悦ばす方法は詳しいくせに、自分が悦ぶ方法には疎いのか。
ほんとに碌な男がいなかったんだなと憤りながら、もどかしげに手を引いて自分の上に導く。
「あっ」
漸く意味がわかったのか、何処か不安そうな眼差しで彼女はホークを見た。
「後は自分で出来るだろう?」
「……」
こくりと頷くと、詩人はそろそろとホークの上に腰を下ろした。位置がずれる度に熱い粘膜が
ホークの性器を掠め、計らずもホークを焦らす結果になる。
(やべえな)
そう思った瞬間、どすんと全体重を掛けてホークの上に熱い体が落ちてきた。
「!!」
より大きな衝撃を受けたのはどちらだったのか。
危なく叫び出しそうになるのを何とか堪え、ホークは自分をすっぽりと飲み込んだ女を見上げた。
彼女にとっても思いがけない衝撃だったのだろう。長い金色の髪がホークの腰に届く程に
大きく背を仰け反らせている。だがホークもそれを悠然と眺める余裕はない。
余裕たっぷりに楽しませるつもりが、どうやらそうも行かないようだ。
「……動ける、か?」
何とか声を絞り出して尋ねると、女の方は声を出すことも出来ないらしい。ただがくがくと首を
横に振った。
「仕方、ねえな。俺の好きなようにやるぜ」
言うなり腰を掴み激しく揺さぶる。ホークの動きそのままに彼女の体が揺れた。
「あああっ!!」
堪らず女は大きく叫び、掌をホークの腰骨に押し当てて耐えるように掴む。だがその程度では
その動きを止められはしなかった。
「嫌だったら、自分のいいように、動いてみろ?」
言いながらホークも自分の限界を感じていた。彼女の中は先程の口よりも熱く、柔らかく、
ねっとりとした粘膜がホークを根元まで包み込み、時折きゅっと締め付ける。
本当に、何から何まで男を悦ばすように出来ている女だった。
だが。
「それじゃあ、不公平だよな?」
「え……?」
詩人は涙目でホークを見つめる。確かに感じているその姿を見て、ホークももう少し頑張るかと
気を引き締めた。
「なに、もっと気持ちよくなりてえだろ、お互い?」
ホークの言葉に驚いたように目を見張り、それからおずおずと手をホークの胸へと移動させながら
女は呟いた。
「……優しい、ですね」
「……はあ?」
言われた意味がわからずに問い返すと、彼女はあの不思議な微笑を浮かべ、それから胸についた
手で腰にかける体重を調節しながらゆっくりと動き出した。
「こんなに、わたしを」
怯えるように緩やかだった動きが、徐々に激しさを増す。ホークも再度彼女の腰を掴んで耐える。
「気遣う人は、今までいなかっ……!」
「ひでえ、奴ばかりだな」
その動きがやがて滑らかに一定のリズムを刻みだすに連れて、ホークもそれに合わせて腰を動かす。
「男ってのは、女を、悦ばすように、出来てるもんだ」
こんな風によ、と不意に腰を突き上げると、耐え兼ねたように甲高い嬌声が上がった。
「女も、そうなのですよ」
互いに限界が近いことを感じて、自然にお互いの手を取り指を絡ませ合う。
そうして己の快感に最も忠実に体を動かした、瞬間。
「……っ!!」
男も、女も、同時に果てた。
詩人が糸が切れたようにホークの上に崩れ落ちてくる。その体を受け止めて、ホークは笑った。
「だから、上手く行くんだろう?」
「……そうですね」
言って彼女もくすりと笑い、ホークの胸に体を預けた。
腕の中の彼女からは、どうしてだろうか、やはり太陽の匂いがした。
目を覚ますと朝の光に照らされた彼女の姿が見えた。もうすっかり服を着込んでいる。
もうそんな時間か、とホークは体を起こすが、窓からはまだ夜明けの光すら見えない。おやと思い
目を擦ると、詩人が気付いてホークに微笑みかけてきた。
「おはようございます。……すみません、起こしてしまいました」
彼女を包んでいた光はもう見えない。見間違えたのだろうか?
「行くのか?」
ホークが尋ねると女は静かに頷いた。
「ええ」
最後に残していたらしい手袋を嵌め、帽子を被ると夕べの名残は全て消えた。
そこにいるのは、男とも女とも付かぬ、一人の吟遊詩人。
「日が出る前にここを発ちたかったので」
「……」
色々と言いたいことがあるような気がした。だが、彼女は吟遊詩人。
こうして人に想いを残して、旅立つのが生業なのだ。
「……気をつけろよ。あんたみたいな美人は危険が多い」
その言葉を聞いて詩人はにっこりと微笑んだ。一晩で見慣れてしまった微笑み。
「ありがとうございます。あなたもお元気で」
旅を続けていれば、また会うこともあるでしょうと。言って彼女は少しだけ淋しそうな顔をした。
ように、ホークには思えた。願望かもしれないが。
置いていた楽器を取りそのまま部屋を出て行こうとして。
見送るホークに最後に飛びきりの笑顔を見せた。正しく光そのもののような微笑。
「この町で、あなたに会えてよかった」
また会える日を楽しみにしています、と。最後に言い残して、彼女はするりと部屋を出て行った。
「……」
俺も、と言いそびれちまったなと、ホークはぼんやりとその後姿を見送り。
それから、白み始めた空を見上げた。
ワロン島に行くことになったのは完全な成り行きだった。
うんざりするほど元気のいいタラール族の娘っ子とウソで知り合い、気付くと保護者代わりに
なっていた。
広い世界を見たいと喚く彼女を連れて行ったノースポイントでゲラ=ハと再会し、故郷に戻って
みようかと言う彼にどういう訳だか同行することになった。勿論子ども付きで。
ゴドンゴからウェイプへ渡り、そこでまた灰色の髪の冒険者とローザリアの女騎士と意気投合して
町で囁かれる奇妙な噂を共に調べることになった。
そうして、ウェイプの武器屋のゲッコ族に対する陰謀を見事見破り、彼らの信頼も得ることが出来。
無事解決したお祝いだと、皆でパブに流れ込んだ時。
ホークは息が止まるかと思った。
そこに立っていたのは、吟遊詩人。服装も何もかもがあの時と同じままの。
思わずその前に歩み寄り、その手を掴んだ、瞬間。
「お久しぶりです、ホークさん」
にこやかに微笑んで彼は――そう、どう聴いてもそれは男の声だった――挨拶を返した。
「パイレーツコースト以来ですね」
それは海賊時代にパイレーツコーストで知り合った男の詩人だった。
顔も、服装も、楽器も、何もかも同じ。ただ声と性別だけが違う。
「……ああ」
落胆のあまり言葉を失ったホークを不思議そうに見上げた後、詩人は後ろにいたゲラ=ハに
微笑みかけた。
「ゲラ=ハさんもお久しぶりです。お二人ともお元気そうで何より」
「ありがとうございます。あなたもお元気そうで何よりです」
ゲラ=ハはそう言って丁寧に礼をするが、ホークはまだ口を利く気にもなれなかった。
「どうしたの、ホーク?」
アイシャが無邪気に尋ねて来る。酒を頼んでいたグレイとディアナも、グラスをホークに渡しながら
不思議そうに言う。
「ホークが吟遊詩人に興味があるなんて、意外だわ」
「同感だな」
「……うるせえ」
力なくそう言うホークに、詩人はにっこりと微笑みかける。
「ホークさんにはパイレーツコーストで大変お世話になったんです」
「主に女性にせがまれて、ですがね」
ゲラ=ハが内情をばらすとディアナとグレイは納得したように頷いた。ホークは反論する気力も無い。
「わたし、吟遊詩人さんに会うの初めて! ねえねえ何かお話して!」
アイシャが無邪気にねだると、詩人はアイシャに微笑んだ。
「喜んで。こうして皆さんに会えたこの日に相応しい物語を」
そうして『ゲッコ族のきゃたり』を始めた吟遊詩人の低い声を聴くとはなしに聴きながら。
ホークはあの美しい金の髪をした女の思い出に浸った。